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天命の城(南漢山城/The Fortress)
オリジナル・サウンドトラック2025年9月24日発売
アナログ盤(アンコールプレス)重量盤・黒 2枚組:
RZJM-67278~9|¥7,700(税込)
CD:RZCM-67280|¥3,410(税込)
DIGITAL- 曲目:
- 1. King’s March Strings Version
- 2. Vacant Throne
- 3. The Fortress Title
- 4. Dispute
- 5. Yong’s Threat
- 6. King’s Letter
- 7. Battle 1
- 8. Blacksmith Battle 2
- 9. Straw Bag, Good Meal
- 10. Absurd Order Battle 3
- 11. Escape 1
- 12. Kahn's Letter
- 13. Traitor
- 14. Escape 2
- 15. Battle 4
- 16. Chilbok
- 17. Farewell
- 18. King’s March
- 19. Return
- 20. Traitor Piano Version
- 21. King’s March Spinet Version
- 22. Traitor Strings Version
- 作品解説(サウンドトラック)
- ファン・ドンヒョク監督による2017年公開の作品で、坂本にとってこれが初めての韓国映画への参加となった。餓えと寒さに苛まれながらの籠城という極限状況をオールロケで撮影した映像のリアリティは凄まじいが、そこに坂本はさまざまなサウンドを加えることで、この映画を単なる歴史物を超えた別次元のものへと昇華させている。「Vacant Throne」での超低域と物音、「The Fortress Title」でのアナログシンセの和音と低いベース、「Dispute」での深いリバーブがかけられたピアノ内部奏法、「Yong’s Threat」でのモジュラーシンセによるノイズ⋯⋯それらは晩年のソロアルバム『async』に通じるサウンドであり、映画のサウンドトラックであることを忘れ聴き入ってしまうほどだ。もちろん、メインテーマである「King’s March Strings Version」での空気を包み込むような優美なストリングスは坂本の真骨頂であり、戦闘シーンで流れる曲ではストラヴィンスキーをほうふつさせるオーケストレーションとリズムを展開するなど、伝統的な映画音楽の要素も巧みに組み込まれている。「King’s March」はストリングスバージョンのほかさまざまな変奏が行われるが、なかでも「King’s March Spinet Version」の美しさは格別だ。チェンバロと同族の古楽器であるスピネットは繊細な音を奏でるが、音量が持続せずすぐに消えていくのが特徴。そのスピネットをゆったりとしたテンポで、それこそ拍や節にとらわれることなく弾くことで、音の消え際から次の音が立ち現れるまでの間が生じ、引き伸ばされた時間と深淵な空間とを表現しているのだ。そんな小音量の世界からオーケストラやシンセを使った大音量、さらには超低域から超高域まで、シーンごとに音量的にも周波数的にもレンジの広いサウンドが繰り出される本作は、『レヴェナント:蘇えりし者』のサウンドトラックや『async』を経ての、坂本の集大成のひとつと言えるだろう。
- 坂本龍一コメント
- 「長く韓国映画の音楽をやれたらと思っていました。アジアの映画にはみな興味がありますが、特に韓国の映画は力強いと感じます。『天命の城』はイ・ビョンホンさんが出ていますので、すぐに OK の返事をしました。ファン監督はぼくの想像よりもモダンな音楽を求めていましたので、ぼくもすぐに方針を変えて、かなり斬新な方向に音楽をもっていきました。監督はかなり自由にやらせてくれたので、とてもやりやすかったです」
- ストーリー
- 清の軍勢12万人に包囲された、1万3000人の朝鮮朝延は、進むことも退くこともできない孤立無援の“南漢山城”に逃げ延びる。生き残る唯一の道は、清の臣従に落ちること。恥辱に耐えて民を守るのか、大義のために死を覚悟で戦うのか。同じ国への忠誠心を持つ、二人の家臣の異なる信念の闘いの末に、未来のために下した王の決断とはー。
リーダーである王の決断、臣の覚悟、そして民の平和。切迫した逆境の中で起こる、三人の男のスリリングでドラマティックなぶつかり合い。国の天命を背負った彼らの誇り高き生きざまは、「いま、なにが民衆のための選択なのか」というテーマを我々に鋭く突きつけ、380年余りの時を経た現代社会に、深く共感できる大切なメッセージを伝えている。
朝鮮王朝史上、もっとも熾烈な「丙子の役」と呼ばれる闘い。その最後の47日間を、5カ月にも及ぶ極寒の中でのオールロケーションを決行し、初めてスクリーンに描いた感動の歴史大作。 - キャスト&スタッフ
- 出演:イ・ビョンホン、キム・ユンソク、パク・ヘイル、コ・ス
監督:ファン・ドンヒョク
音楽:坂本龍一
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
2017年/韓国映画/139分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル - IMDb|ツイン
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MOVIE
- 『天命の城』 | 音楽メイキング映像
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- 『天命の城』予告編
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INTERVIEW
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『天命の城』坂本龍一インタビュー
「0.1秒単位までオーダー通りに仕上げていく」
教授が語る仕事への姿勢 -
『天命の城』Blu-rayスペシャルBOX(発売:ツイン)
坂本龍一インタビュー- Q:『天命の城』の音楽を手がけることになった経緯を教えてください。
- 僕のウェブサイトの問い合わせフォームから連絡があったんです。映画音楽の仕事を受けるエージェントは別にいるんですが、そこからではなく、直接連絡が来た。どんな作品かと思ったら、イ・ビョンホン主演の作品だという。この何年か、韓国映画や中国映画に個人的にもとても注目していて、よく観てるんですね。それで、ちょうど『アジア映画のオファーはないかな?』と思っていたところでもあったので、ポジティブな返事をしました」
- Q:現在の韓国映画は、エンターテインメント作品、アート系の作品、いずれも大きく発展してきていて、この『天命の城』のファン・ドンヒョク監督の作品もそうですが、その二つをあわせもった作品も多いですよね。
- 「エンターテインメント作品、アート作品、どちらも好きです。アクションが中心のエンターテインメント作品であっても、政治の腐敗であったり、社会問題であったりが必ず織り込まれていて、韓国の社会をよりよく知るという意味でも興味を引かれますね。韓国の歴史、朝鮮の歴史については、今回の『天命の城』での仕事を通して知ったことも多かったです。この作品で描かれている歴史的事件の前には、豊臣秀吉による朝鮮出兵があった。最終的に朝鮮はそれを撃退しましたが、その直後にこの事件が起こったわけです。朝鮮の歴史というのは、常に隣国である中国の政変に影響を受けてきた。そして、それは直接的にも間接的にも日本に影響を及ぼしてきた。朝鮮の歴史を知るということは、東アジア全体の歴史を知ることでもある。そういう意味でも、とても興味深い題材でした。それと、もう一つ面白いのは、これは清が始まったばかりの頃の話であること。そして、清の最後の皇帝を描いた作品が『ラスト・エンペラー』だった。これで清の始まりの頃と終わりの頃、それぞれを題材にした映画に関わったことになったわけで、それについては感慨深いものがあります」
- Q:本作は韓国で大ヒットをしたわけですが、その理由はどこにあると考えますか?
- 「あくまでも僕の見方なので、実際は違うのかもしれませんが、隣に中国のような大国があって、その強い影響下にある時に、韓国のような比較的小さな国がどうやってそれを乗り越えていくのか。それは、どの時代においても変わらないテーマだと思うんです。今も朝鮮半島の横には中国があって、もう一方にはアメリカという巨大な国がある。そう考えると、この作品が描いているのはとても現代的なテーマなんだと思います。『天命の城』に出てくる仁祖というは、韓国の歴史の中で最も人気のない王だと聞きました。韓国の人にとっては、屈辱的な歴史を象徴する王であり、実際にその体制下において人的被害もあった。『そんな時代の王様なんてわざわざ映画で見たくない』っていう人も少なくないそうです。でも、ファン・ドンヒョク監督はそれをわかった上で敢えてこの題材を選んだと言ってました。それは、プロデューサーやこの作品に投資した人も含めて、すごく勇気のあることだと思います。現在のような非常に暴力的な時代、力対力でいろんな物事を解決しようとしている時代に、このように屈辱に耐えながら和平を選んだ王様を描いた映画を作ったわけですからね」
- Q:ちょうど坂本さんが最初にYMOで世界に進出した70年代から80年代にかけて、日本の資本は次々に海外での影響力を伸ばして、一時期は不動産を買い占めたりもしていました。一方で、現在はかっての大企業も海外資本に買収されるなど、撤退戦を強いられています。「どのように負けるのか?」というのは、日本人にとっても重要なテーマになってきているように思うのですが。
- 「生物の世界も含めて、弱いものが負けるとは限らないんですよね。弱いものには弱いものなりの戦いのやり方があって。どんな世界にも、強いものがいれば、弱いものがいて、生きていく上ではいろんな戦略がある。それは動物だけでなく、植物でさえもそうですね。だから、日本人にとってだけでなく、世界全体が武力と経済力の競争をしているような時代に、こういう映画があるということはとても意味があることだと思います。『天命の城』は、歴史的な大きな事件を描いていながら、あまり戦闘シーンが多くないです。アクション描写は韓国映画が得意とするところでもありますが、この作品はそうではない。あくまでもイ・ビョンホン演じる吏曹大臣の葛藤を中心に描いている。そこにこの作品の意義があるんでしょうね」
- Q:音楽の使われ方も、とても抑制が効いてますよね。最近はほぼ全編で劇伴が流れているような作品も少なくない中、無音のシーンもとても多い。それによって、音楽の流れるシーンがとても印象に残ります。
- 「これでも音楽が多いくらいだと思います(笑)」
- Q:そうですか(笑)。
- 「確かに、最近の通常の映画に比べたら、音楽が使われている箇所は限られているのかもしれないですが、音量の大きさも含めて、このくらいがちょうどいいんじゃないかなって思います。音楽で引っぱっていったり、何かを押し付けたりする映画が、最近、僕は本当に嫌なので。映画の中で風のように音楽が存在しているのがいいですね。まあ、風だったら風の音が聞こえてくればそれでいいんですが(笑)」
- Q:坂本さんが音楽を手がけた近作でいうと、例えば『レヴェナント:蘇えりし者』ではもっと音楽が前に出ていたと感じましたが、それはやはり、作品ごとに適正な音楽のあり方が違うということでもありますよね?
- 「『レヴェナント』でも、音楽が少ないと思った人は多かったみたいですよ。実際にあの作品では、2時間36分の作品で、2時間分くらいの音楽を書いてるんです。でも、その大半はそれこそ風のような音楽や、“ザーーーー”っていう音だったりして、いわゆる旋律のある音楽ではなかったんで、それを音楽だと思ってない人が多いということは面白いなって思いましたね。そういう意味では、今回の『天命の城』の方が音楽的と言えますね」
- Q:旋律がそこにあるという意味で。
- 「はい。今回監督とのやりとりで面白かったのは、最初はもっとセンチメンタルな、ちょっと韓国的なメロディも含んだ音楽を作っていたんです。そうしたら、監督から『もっとモダンなものにしてください』って言われて。それで取り下げた曲もあります。監督はできるだけ韓国的じゃないものを望んでいたんです。だから、韓国の伝統音楽と現在の音楽の融合というのが僕のテーマではあったんですけど、それもあまり前面に押し出してもいません。時代劇だからといって韓国の伝統音楽に寄せるのは違うということで、そこでのバランスは慎重に考えました」
- インタビュー:宇野維正
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